準備時間なし、予算極小、IT知識なしでOK!中小企業が今日から始める「お手軽テレワーク」のススメ

田澤由利(たざわ ゆり)

株式会社テレワークマネジメント代表取締役

1962年、奈良県生まれ。上智大学卒業後、シャープに入社。出産と夫の転勤を機に退社し、北海道北見市でサイト作成やコンテンツ制作を行う会社を設立。全国各地に在住するスタッフと連携して業務を行う。2008年から現職。企業等へのテレワーク導入支援や国や自治体のテレワーク普及事業を実施している。

テレワークを続ける会社が多い一方で、テレワークの導入が遅れていたり、原則出社に戻さざるを得ない状況にあったりするのが、日本経済を支える中小企業だ。大企業と違い、テレワークの環境整備のために予算や人員を割く余裕はなかなか作れないからだ。しかし、今後も新型コロナの広がりは予断を許さない。お金や時間をかけなくても、すぐにテレワークを始める方法はないものだろうか。株式会社テレワークマネジメント代表取締役の田澤由利さんに聞いた。

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大事なのは、「相手の声がいつも聞こえること」 大事なのは、「相手の声がいつも聞こえること」

ITに詳しい社員が主導するとなぜ続かないか

テレワークを支援するネットサービスは色々あるが「ITに詳しい人が集まって、あれこれ導入しようとすると失敗しがち。単純に、日常の職場のコミュニケーションをそのままネット上に置き換えるところから始めるのが失敗しないコツです」と田澤氏はアドバイスする。

「本来であれば時間をかけて、段階的に移行していくのが理想です。けれども今はどこもそんな余裕はありません。そうした中で特別なことをしようとしたり、あれこれ欲張って導入しようとしたりすると、ついていけない人が続出します。IT操作に習熟していない人たちに対するフォローも十分にできません。結果、『ウチにはテレワークは向いてない……』という、後ろ向きの意見が社内の大勢を占めるようになってしまうのです」

「声が聞こえること」「勤怠管理」と「資料の共有」

社員によっても温度差があるだろう。多少なりともITに通じている社員はテレワークに積極的に取り組んでみようと思うかもしれないが、苦手意識があると、少しのつまずきで「やっぱりだめだ」となってしまいがちになる。まずは従来の仕事のやり方を踏襲しながら、「思っていたよりできるじゃないか」という“小さな成功体験”を積み重ねていくことが大切なのだ。

まず、会社でないとできないこと/自宅勤務では不都合なこととは何か、考えてみましょう。たとえば会社であれば、声を出すだけで、部下に指示を出したり上司に報告ができたりします。また、現状の勤怠管理システムは社員が出社することを前提にしていて、自宅勤務には対応していないという会社がほとんどでしょう。共有の資料や書類は会社に保管されており、誰か一人が持ち帰るわけにはいきません。ですが、これらのことをテレワークで再現するのは、実はそんなに難しいことではないのです」

互いの声が聞こえるようにする

それでは、日頃の職場のコミュニケーションをネット上に置き換える具体的な方法を見ていこう。

「まず、声をかければすぐに相手に聞こえるようにするという点ですが、勤務時間中は全員がWEB会議システムに接続しておくようにすることで解決できます。WEB会議システムというと“会議に使うもの”と思いがちですが、会議室を仮設オフィスとして、そこに皆が集まって仕事をするイメージです。以前のWEB会議は、多人数で使うと、映像がギクシャクしたり音声が途切れたりして、実用に耐えないことも少なくありませんでしたが、最近はかなり改善されています」

そして、WEB会議システムの利用目的は、コミュニケーションだけではない。

「入室した時刻を出社時間/退出した時刻を退社時間とすれば、勤怠管理も可能です。『パソコンに向かう顔を常に見られていては落ち着いて仕事ができない』という声が上がるかもしれませんが、職場では仕事中に顔を見られるのは普通のことではないでしょうか?」

カメラでキーボードを映すことの意味

とはいえ、会社のオフィスにいて、実際に目の前にいる相手であれば、こちらも見ている相手が見える。WEB会議システムだと“モニターを見ている同僚たち”が見えるだけなので、「いつ誰が自分を見ているかわからない」という居心地の悪さはあるかもしれない。

「社員側のカメラを、パソコンのキーボード周辺に向けておくことにするのはどうでしょう。社員の顔は常時見られませんが、手元が映っていれば、仕事をしていることはわかります。あるいは社員側のマイクをOFF、スピーカーはONにしておく。話しかけたい社員がマイクをオンにして、誰かから「○○さん、ちょっといいですか?と声が掛かれば、呼びかけられた社員が自分のマイクのスイッチを入れて、返事をすればいいのです」

「Zoom」は使いやすさと安定感に優れている

WEB会議システムのおすすめは『Zoom(ズーム)』だ。カメラとマイクを備えた端末があれば、OSを問わずどこからでも利用できる。無料で利用することもできるが、グループで常時接続しておくのであれば、有料版(月額2000円~)の契約が必要になる。ホストに登録された人がWEB上に会議室を開設し、メールなどで全員にURLを知らせるだけで始められる。使い方は実に簡単だ。

「セキュリティ面を不安に思う人もいるでしょう。Zoomは国内外でシステムの脆弱性に関する問題が幾度か指摘され、話題になりました。ただ、問題が発覚するたびにすぐ対策を講じていますし、利用者側にもとるべき手段はあります。そもそも職場でも、業務上の機密事項は、全員が聞いている場では話さないはずです。機密事項を扱う場合は、個別にメールで連絡したり、電話で話したりすればよいのではないでしょうか」

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Zoomの常時接続で仮想オフィスを作り、個別に仕事をしている間は、社員の手元を映しておくのがおすすめ

社員の「気の緩み」を防ぐには社員の「気の緩み」を防ぐには

テレワークを続けるコツは「上司を不安にさせない」こと

勤怠管理に関しては、クラウドで出退勤を管理できるサービスもある。専用アプリやWEB上で「出勤/退勤」を打刻し、クラウド上で勤務時間の集計や残業・有休の管理などが簡単にできる、便利なシステムだ。しかしそれだけでは、上司側に「部下は在宅勤務で本当に仕事をしているのだろうか」「サボっている時間も勤務時間に記録しているのではないか」といった不安が生じやすい。

一方で、勤務時間中にWEB会議システムを常時接続にしておけば、「職場と同じように皆が仕事をしている姿が見えます。カメラをOFFにしていても、デスクについて業務上の問い掛けに対してすぐに答えられる状態ではあるわけです。一定の安心感はあるでしょう」

「画面のチラ見」もオンラインで再現

ちなみに田澤氏の会社では『F-Chair+(エフチェアプラス)』というツールを使って、社員の勤怠管理をしている。このツールでは出退勤ではなく「着席/退席」を登録する。社員は仕事を開始したらパソコンのデスクトップ上にある「着席」のボタンをクリックし、休憩や私用で仕事を離れるときには「退席」のボタンをクリックする。これによって、仕事をしている時間だけが勤務時間としてカウントされる仕組みだ。

「このツールでは、社員が着席している間のデスクトップ画面がランダムに記録され、後から上司や人事部など権限のある人が閲覧できるようになっています。業務と関係ないサイトが表示されていたり、ずっと同じ画面が続いたりすると『仕事をしていないのではないか?』となるわけです。オフィスで仕事をしていれば、後ろを通りかかった上司がパソコン画面をチラッと見るのはよくあることでしょう。それと同じ感覚です。社員のなかには、自宅ということでつい気が緩みがちになる人もいますから、他人の目を意識することで自分を律することができるという効果もあります」

「仕事量を減らす」のでなく「柔軟に働く」

こうしたツールに対して「監視されているようだ」と感じる社員がいた場合には、どのように説明すればいいのだろうか。

「テレワークで実現を目指すのは、“働く量を減らすこと”ではなく“柔軟に働くこと”です。たとえば私の会社では、保育園に預けた子どものお迎えで、定時よりも早く仕事を切り上げた社員が、退席ボタンを押して仕事をいったん中断し、子どもを寝かしつけた後で再び着席ボタンを押して、その日の労働時間の埋め合わせをする、といった使い方をしています。毎日決まった時間に仕事に取り掛かる習慣や、上司や同僚の目を意識するという、良い意味での『緊張感』は保ちつつ、これまで時間や場所に縛られてできなかった働き方ができるようになるのです」

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場所に縛られない働き方にも、「他人の目」は必要

ペーパーレスは今日から長期的に取り組む

テレワークを実現する上で最も高いハードルとなりそうなのが、会社に保管されている共有の資料や書類の問題だ。もちろん、PDFファイルにしてクラウド上に置けば、誰もがどこからでも閲覧できるようになるが、職場のキャビネットに保管されている大量の「紙」を、短期間にすべてデジタルデータ化するのは現実的ではない。

「オフィスのペーパーレス化はこれから必ずやってくる流れですので、今後はできる限り紙の書類を作らないことです。作成したファイルは必ずクラウドに保存する。取引先から受け取った紙の書類などは、その都度スキャンをとってやはりクラウドに置く。そうすれば次から必要になった人は、クラウドから電子データを引っ張ってきて利用できます。既存の資料は、今日からでもデータ化の作業を始めてください」

「紙とはんこからの脱却」のチャンス

とはいえ、オフィスにある書類の電子データ化の作業を完了してからテレワークを始めようとすると、永遠にスタートできない。書類の電子データ化とテレワークは並行して行いたい。たとえば当番制で出社した人が、テレワークしている人たちからリクエストのあった必要書類をスキャンして、順次クラウドにアップロードしていくという手もあるだろう。

「とにかく紙とはんこの文化から脱却は、近い将来すべての会社が通らなければならない道です。これをいい機会と捉えて、頑張っていただくしかありません」

紙の領収書、エクセル打ち込み、会計ソフトの管理から解放されるには

 

「効率的すぎるビジネスチャット」の問題「効率的すぎるビジネスチャット」の問題

今、自分の会社で何が“盛り上がっている”か?

「WEB会議システムの常時接続」からもう一歩進んで、スムーズで効率的なコミュニケーションを実現するために導入を検討してみたいのが、ビジネスチャットだ。基本は「報連相」を軸とした短いメッセージのやり取りだが、テーマ別に議論が整理できるようになっている。また、カレンダーなどの機能と連携したり、文書や画像などのファイルを共有したり、WEB電話で会話したりする機能を備えている。

「ビジネスチャットはテレワーク関連のツールとして大変注目されていますが、過大評価されている気もしています。確かに使ってみれば便利ではありますが、これだけで社内のコミュニケーションが網羅できるとは思いません」

オフィスでのコミュニケーションを再現できるか

田澤さんによれば、リアルなオフィスでは業務連絡だけでなく、激しい議論、深刻な相談、仕事とは直接関係のなさそうな息抜きの雑談から、噂話・世間話の類まで多種多様な会話が交わされている。そうしたコミュニケーションが混然一体となって機能しているのが職場の良さであり、理路整然としたやり取りが流れていくビジネスチャットでは、そうした良さが再現しにくい場合があるというのだ。

「そんな中でもFacebookのビジネス版SNSである『Workplace(ワークプレイス)』は、良くできたコミュニケーションツールになっていると思います。このツールが他のビジネスチャットと違うのは、自分に関わる情報だけでなく、メンバー同士が公開でやり取りしている多種多様な話題が、自然と目に入ってくるところです。出社してオフィスにいると、遠くで誰かが何かの話題で盛り上がっている様子が見えたり、同僚同士の会話がたまたま耳に入ってきたりしますよね。Workplaceではそうした予期せぬコミュニケーションまで含めて、画面上でうまく再現されているんです」

Workplaceの画面中央にある「ニュースフィード」には、あなたが関心を持ちそうだとAIが判定した人やプロジェクトの最新情報が表示される。そして、コメントや「いいね!」の多さで、話題の盛り上がり度合いがわかるなど、他のビジネスチャットにはない機能を多く備えている。基本的な機能を備えた「エッセンシャル」は無料で利用できる。

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「雑談力」が高いビジネスチャットを選ぼう

若い世代の社員は「家にスマホしかない」

最後に、テレワークの前提として「これがなければ話にならない」というものが2つある。パソコンと、容量無制限の高速通信環境だ。

「ノートパソコンが1人1台支給されていれば、それを持ち帰れば問題ありませんが、デスクトップ型であったり、1台を複数社員で共有していたりする場合もあります。社員が自宅にパソコンを持っているのなら、会社のパソコンを遠隔操作できる「リモートデスクトップ」を使うのが簡単です。おすすめは『マジックコネクト』です。NTT東日本と独立行政法人情報処理推進機構が提供している『シン・テレワークシステム』を利用するのも手です」

少し厄介なのは、高速通信環境だ。特に若い世代の社員は、自宅にインターネット回線を引いていない人は少なくない。スマートフォンのテザリング機能では速度と容量の面から厳しい場合があるので、できればモバイルWi-Fiルーターを貸与するなどして対処したい。

テレワークは、多くの会社にとって、これまで経験したことのない新しい働き方であり、機材の購入や社内規定・評価基準の策定など、導入までにはかなりの費用と手間かかると思われがちだ。しかし、クラウドのツールやサービスを活用すれば、意外と簡単に始め、続けられることがおわかりいただけたのではないだろうか。今後の新型コロナの感染動向や、その他の災害に備えるためにも、勇気をもって第一歩を踏み出したい。

文=渡辺一朗 イラスト=タケウマ 編集=eon-net編集室