60代の転職の教科書「転職ではなく新人の気持ちで」

郡山史郎(こおりやま しろう)

株式会社CEAFOM代表取締役社長

1935年生まれ。一橋大学経済学部卒業後、伊藤忠商事を経て1959年、ソニーに入社。1973年に米国のシンガー社に転職後、81年ソニーに再入社。取締役情報機器事業本部長、常務取締役経営戦略本部長、資材本部長、物流本部長、ソニーPCL株式会社代表取締役社長、会長、リーディング・エッジ社代表取締役社長を歴任。04年、プロ経営幹部の紹介を行う株式会社CEAFOMを設立し代表取締役に就任。著書に『定年前後の「やってはいけない」』『定年前後「これだけ」やればいい』(青春新書インテリジェンス)ほか。

人生100年時代。長い定年後の人生を見据えて転職するのが60代。しかし、これまでの実績に見合う求人は皆無なのが普通だ。どういう条件なら働き続けることができるのか。定年前後の転職事情に詳しい郡山史郎氏に、豊かで幸せな60代のための転職について教えていただいた。

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給与やキャリアにこだわらず
「なんでもやる」を繰り返す

定年後も人生は長い

65歳まで今の会社で働き続けるのは幸せか

2013年4月に改正された「高年齢者雇用安定法」により、企業は2025年までに従業員の雇用を65歳まで確保する措置を導入することが義務付けられました。昨今の働き方改革では、これを70歳まで引き上げようといった議論もなされています。

しかし、現実には今も90%以上の会社が「60歳定年制」を維持しています。定年退職→再雇用という形で65歳まで会社に残れる制度が整いつつありますが、給料は大幅に下がります。年収1000万円だった役員が子会社に出向して、時給1000円になってしまったというケースも珍しくはありません。

定年の有無より大きな問題とは

それでも私は、定年制はなかなかよくできたシステムだと思っています。企業が生産性と競争力を維持するには、能力の落ちた社員を雇用し続けるわけにはいきません。40を過ぎると能力も体力も下降するのは事実ですから、どこかで辞めてもらわなければならないのです。

年齢で一律に退職を迫るのは乱暴と感じるかもしれませんが、定年制がなければ米国のように完全成果主義になるでしょう。成績下位10%を入れ替えるような制度になれば、結局は能力の落ちたシニアが対象になるはずです。いつ解雇されるかわからない不安に怯えながら仕事をするのは、精神衛生上もよくありません。

問題は日本人が長寿になったことで、定年退職した後の人生がやたらと長くなったことです。現在、60歳の平均余命は男性23.51年/女性28.77年(平成27年度調査)。仕事をやめて引きこもってもいいことはありません。体の動くうち、頭の回るうちは働いていたほうが、充実した健康的な生活が送れます。

キャリアアップできるのはどんな人か

即座に採用が決まった工場長

そこで職探しとなるわけですが、人材斡旋会社に登録しても60代の求人はほぼ皆無です。私の会社は小規模ながら1000社を超える求人情報を扱っていますが、60代の求人は年間10件あるかないかしかありません。対して60代の登録者はというとなんと1200人もいるのです。こうした事情はどこも同じだと思います。

これだけ登録者がいれば、たまに飛び込んでくる求人にマッチして、奇跡的にキャリアアップできる人もいます。

例えば、ある製造会社から「メキシコに工場を新設することになったが、現地工場長に内定していた人物が家庭の事情で退社してしまった。スペイン語に堪能で、メキシコで生産現場を取り仕切れる人物はいないだろうか」という求人がありました。そこへちょうど、海外赴任経験が豊富で、つい最近定年退職した60代の登録があり、あっという間に採用が決まりました。

中小企業へ転職し次期社長に内定

あるいは中堅企業で「CFOが病気になって働けなくなった。社内には後を継げる人材がいない。ウチは定年がないので60代でもいい。信頼のおける人を紹介して欲しい」という依頼がありました。すると、同業大手を退職したばかりの元役員クラスの人の登録が見つかりました。

継承者不足に悩む中小企業では、60代の転職者が入社後の貢献と人柄を認められ、次期社長に内定したという事例もあります。

そうした転職者に聞けば「60代で仕事がないなんて言われているけどウソ。登録したらあっという間に自分の特性が活かせる仕事が見つかり、年収も待遇も格段に上がった」とホクホク顔でしょう。けれどもそれは、単に運が良かっただけのこと。そんな奇跡を待ち続けていたら、いたずらにキャリアの空白期間を長引かせてしまう可能性のほうが高いでしょう。

転職ではなく新たな就職と考える

「キャリアの延長線上で探さない」が鉄則

世の中に60代でもできる仕事は、あふれるほどあります。そのほとんどは中小零細企業ですが、彼らはコストの高い人材斡旋業者を利用しないのです。つまり、世の中にたくさんある60代向けの仕事には、人材斡旋会社に登録して待っていてもありつけません。

では、どこを探せばいいのかと言われるかもしれませんが、これにはズバリの正解がありません。知り合いやネットの転職情報、ハローワークなどを自分であちこちあたって、探し当てていただくしかないのです。

ポイントは「それまでのキャリアの延長線上で探そうとしない」ことです。これまで何十年も働いてきたのですから、その関連分野に自分の強みがあると思われるのは、ある意味で当然かもしれません。しかし、雇用する側からすれば、スキルが必要ならば30~40代の人材を求めます。60代に求められる要件はまず健康に不安がなく元気に働いてくれること、読み書きと会話に問題がないこと、礼儀正しく人当たりがいいこと、そして給料が安くても働いてくれることです。

定年後こそ「職を転々と」してみる

ここで「自分は大企業の部長だった」とか「大きな事業を手掛けてきた」などという過去の栄光は、何の役にも立ちません。むしろ、雇う側に使いづらそうだと感じさせてしまうかもしれません。履歴書や職務経歴書にもアピールになるだろうと過去の実績を事細かに書く人がいるのですが、書けば書くほど逆効果です。

「なんでもやります」

「お給料はいくらでもかまいません」

「どこへでも行きます」

こんな姿勢であれば仕事はすぐに見つかります。とりあえず選り好みせず、ご縁のあったところに飛び込んでみましょう。そこで仕事をやりながら「もっといい職場はないか」と、探し続ければいいのです。職探しや面接を趣味にしてしまうという手もあります。

20~50代は職を転々とするジョブホッパーはまず雇ってもらえませんが、60歳を過ぎたら何回仕事を変えようとまったく問題ありません。いろいろな職場を転々としても構わないのです。そのうち、バリバリ現役で働いているときには気づかなかった、自分が心から楽しめる仕事や、最高に居心地のいい仕事場と出会えるかもしれません。

給与にこだわらず意識を切り替える

人に喜ばれる仕事をしてストレスから解放される

これまで第一線でバリバリ活躍してきた人からすれば、こういう就職は少々寂しく感じられるかもしれません。ですが、60歳を超えてなお厳しい競争の世界に身を置き続けることが、はたして本当に幸せかどうかを考えてみてください。

体力も気力も漲る伸び盛りの20~30代と同じ土俵で競争しても、勝てるはずがありません。競争に敗れ、現実に直面するたびに自分の衰えを思い知らされ、惨めになるだけです。

それなら定年後は裏方に回り、人に喜ばれる仕事をする方がいいと私は思います。ノルマや納期に追われ、キリキリと胃の痛い思いをすることはありません。仕事をしていると生活にリズムとハリができ、ストレスからも解放されます。

支出が減るので収入にこだわり過ぎない

もちろん収入は大幅に減るかもしれません。けれどうまくできたもので、歳をとるとお金はそれほどかからない生活スタイルになってきます。住宅ローンを終えた人であれば、もう住処の心配はせずに済みます。あれこれ着飾る機会も減るので、服飾費もかかりません。身だしなみに気をつけて、清潔にしていれば十分です。たまに美味しいものが食べられれば幸せでしょう。しかし私もそうですが、歳を取ると食が細りますから、普段の食事はほんのちょっとでも満足するようになります。お金のかかりようがないのです。

65歳以降は年金の支給が始まりますから、仕事で得る収入と合わせれば十分に暮らしていけるでしょう。やや入り用になったときにだけ、貯金を切り崩せばいいのです。なので、あまり給料にこだわらなくてもよくなります。

「年齢相応」を受け入れて仕事に対する意識を切り替えることができれば、あなたの第二の人生は今までよりもずっと穏やかで豊かな日々になるでしょう。

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「お金のために働く」のでなく「自分のために働く」と意識を切り替えよう。

 

構成=渡辺一朗 撮影=山本祐之 編集=eon-net編集室