30代転職の教科書出戻り、給料減……ハプニングを“掴む”人こそが成功する

工藤直亮(くどう なおすけ)

株式会社クライス&カンパニー ヴァイスプレジデント
キャリアコンサルタント

立命館大学経済学部卒業後、採用関連のコンサルティング企業に在籍。人材コンサルタントとして主に一部上場企業を中心に、新卒採用視点から組織課題を解決することを目的としたコンセプトメイキングから企画、設計、運用から教育面に至るまでを一貫して担当。2012年、クライス&カンパニー入社。主に、IT業界、人事コンサルティング・教育業界、製薬業界、ネットベンチャーを担当。特にミドルマネジメント層のコンサルティングを得意としている。

多くの人が最初に就職してから10年以上の経験を積んでいる30代は、気力、体力ともに充実し、それなりの専門性も身につき、もっとも転職の好機といえる。ミドルマネジメント層のコンサルティングにも強い30代の転職の考え方を工藤直亮氏にうかがった。

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経験も積み転職市場で有利
今後のキャリアと人生を整理する好機

「30代限界説」は過去の話

職種・業種を変えるか、変えないか

30代は転職市場がもっとも熱い世代です。入社して5~10年の経験を積んでいるので即戦力としての期待が高く、気力・体力もいちばん充実しています。「30歳の壁」「35歳限界説」などと言われたのは、ほとんど過去の話といっていいでしょう。

転職を考えるのは、現状の会社なり仕事なりに何らかの課題を抱えているからだと思います。まずは「その課題が何であるのか」「それは本当に転職によって解決するのがいいのか」「転職すれば解決するのか」を整理することです。

30代前半(30-34歳)では、まだ業種や職種を変える転職があり得ます。とはいえ、これまでのキャリアをまったく生かさない手はありません。今までやってきたことが8割生かせ、チャレンジの要素が2割程度あるくらいの仕事探しがちょうどいいかもしれません。

あなたにはいくつ「タグ」がついているか?

35歳を超えると、企業にとっては幹部候補の採用という別の要素が加わります。即戦力であるのはもちろんのこと、より高度な専門性とマネジメント能力が求められます。自分の強みとなる専門性がどこにあるのか、自己分析で見つけてください。

専門性は「タグ」と言い換えてもいいでしょう。タグが複数あると明確な差別化ができます。例えば新卒で入社してまず開発部門に配属され、3年後に企画部門に異動したとします。そうすると「開発」「企画」という2つのタグをもって「開発の事情を理解した企画が立案できます」という売り込み方ができます。

経営思想家のマルコム・フラッドウェルによると、累計1万時間の経験があるとその領域に関する専門性が身につくといいます。1日8時間×週5日勤務を(1年間の営業日が60週あったとして)4.2年続ければ1万時間です。ということは、35歳までに2~4項目のタグが身についているはずです。あなたにはどんなタグがいくつあり、その組み合わせでどんなアピールができるでしょうか。

「転職の成功」とはいった何か

「年収アップなら成功」とは限らない

転職を成功させるためには何が必要ですか/失敗しないためには何に注意すべきですか、ということをよく聞かれます。しかし、私はそれにはっきりと答えることができません。転職における成功とは何なのか、失敗とは何なのかの明確な定義はないと考えるからです。

年収がアップすれば成功といえるなら、話はそう難しくありません。給与水準の高い業種に行くか、業界上位の企業を目指すことです。しかし、将来のことは誰にも断言できません。転職して数年後に業績不振で給与水準が引き下げられたり、倒産して会社自体がなくなってしまったりということがないとは言い切れません。

そうするとその転職は「失敗だった」ということになるのでしょう。しかし、そこで死に物狂いで頑張っていたら苦境を脱することができ、結果として「あのピンチが成功のきっかけだった」ということになるかもしれません。

ハプニングを楽しめるかどうか

クランボルツ教授が提唱した「プランド・ハプンスタンス」(計画的偶発性理論)というキャリア形成理論があります。「キャリアでは偶然の出来事/予期せぬ出来事がたびたび発生し、それがその後の大きなターニングポイントになる。偶然や予期せぬ出来事をポジティヴに捉え対応することによって人生は向上する」という理論です。

ここでのポイントは偶然や予期せぬ出来事に遭遇したとき、ポジティヴに捉えられるか否かです。年収増のためにチャレンジしたいことを諦めていたり、本当はやりたくない仕事を我慢してやっていたとしたら、はたしてポジティヴに捉えることができるでしょうか?

30代のキャリアをどう過ごすかは、その後の生き方を大きく左右します。自分がもっともポジティヴに向き合えるのはどんな仕事か、自分の市場価値をもっとも高められるのはどんな職場なのかをよく考えてみるべきです。

2000万超の年収が半分以下「でも成功」

今の給料より、将来の自分の市場価値を上げる

一つ実例を紹介しましょう。その方は某外資系コンサルタント会社で、30歳にして2000万円を超える年収をもらっていました。その方が数年前、畑違いのあるベンチャー企業に転職し、経営に加わりました。年収は半分以下、数年後には潰れてしまっているかもしれない会社です。

私には大きなリスクテイクをされているように見えました。ところが本人はその転職を、まったくリスクなどとは思っていなかったのです。

「このまま元の会社に居続けたとして10年後、理論には長けていても実際の経営経験のない自分に、コンサルタントとしてどれだけの市場価値があるだろう? ベンチャー企業に行って経営に加われば、新しい未来が開ける。もし失敗して潰れたとしても、その時はその時。失敗経験を武器にしてコンサルタント業界に戻れば、元の会社は何倍もの価値で自分を買い戻してくれるだろうと確信があった」

現職で任務を全うしていれば「出戻り」もあり

結果としてこの方は出戻りすることなく、いまもベンチャー企業で一つの事業の経営をしておられます。年収減を受け入れた時期の「投資」が、見事に「リターン」に結び付いた事例とも言えます。

この方は「出戻り」というカードを使いませんでしたが、与えられた任務を全力で全うし現職で必要とされる存在になっていれば、「出戻り転職」は十分にあり得ます。企業側からすれば未知の転職者を採用するよりは、在籍経験があって企業カラーにフィットするのがわかっている人に戻ってきてもらうほうが確実性が高いからです。さらにいえばリファラル採用になりますから、採用費用もかかりません。

もちろん、不義理をしないこと、引き継ぎを万全にすること、退職の日まで恩返しの気持ちで一生懸命働くなど、丁寧な辞め方をしておくことも大切です。

就職後10年経ったら、転職か残留か考える好機

「転職しようと思ったがやめた」がモチベーションに

最初に30代は転職の好機と述べました。それは単に求人が多いからではありません。10年前後の経験を積んで仕事の何たるかがわかり、専門性という武器も身に付いたところで、自分にはどれだけの市場価値があるのか、本当にやりたい仕事は何なのか、この先どんなキャリアを描いていきたいのかといったことを考えるのにいいタイミングだからでもあるからです。

そうしたことは、ぼんやりと考えるだけではわかりません。転職というゴールを設定してあれこれ模索するうちに、頭の中が整理され徐々に答えが見えてきます。その結果が、現在の職場で頑張り続けるのが最善という結論が出てもいいのです。以降はモヤモヤが吹っ切れて、今まで以上に仕事に邁進できるようになるでしょう。

まずは、キャリアコンサルタントの面接を受けてみて、自分の考えを整理する機会を作ること。それは人生をよりよい方向に動かす、きっかけになるかもしれません。

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大事なのは、実際に転職するかどうかでなく、転職という選択肢もあることを常に意識して仕事をすること

構成=渡辺一朗 撮影=山本祐之 編集=eon-net編集室