「エクセル経費精算」「紙の経費精算」は、社員一人あたり年間50時間のムダ!なぜあなたの会社は「手作業経費精算」から卒業できないか?

吉澤 大(よしざわ まさる)

吉澤税務会計事務所代表

1967年、埼玉県生まれ、明治大学卒業。國學院大學大学院博士前期課程修了後、会計士事務所勤務などを経て、吉澤税務会計事務所代表。著書に『会社の数字に強くなる!』『一生食べていくのに困らない経理の仕事術』など。

経理部の業務を改善し、働き方改革を後押しする切り札として期待されているのが、会計クラウドサービス導入による経理の自動化だ。社員から要望が強い、経費精算クラウドサービス導入による経費精算業務の自動化も、会計クラウドとの連携が必要となることが多い。近年は会計クラウドサービスが低料金で使えるようになり、中小企業や個人事業主を中心に導入に踏み切るところが増えている。
しかし、実際に会計クラウドサービスを導入した現場の声を聞くと「手順に通りに売上や経費を入力していれば年度末には自動で決算書が出来上がると思っていたが、かえってややこしくなった」という声が少なくない。「仕上げだけ税理士さんにお願いすればいいと思って提出したら『こんなデータじゃ使いものにならない』と、従来通りのやり方に戻された」というケースも。
経理部門の大革命という宣伝文句とは裏腹に、会計クラウド導入にはまだまだハードルがある。何が妨げになっているのか、経理部門の負担を減らすには、そして社員の経費精算業務負担を減らすにはどうすればいいかについて、吉澤税務会計事務所の吉澤大氏に聞いた。

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 経理業務クラウド化の落とし穴とは 経理業務クラウド化の落とし穴とは

急速にシェアを伸ばす会計クラウド

「まず前提として中小企業や個人事業主の需要に対応した会計システムには、パソコンにソフトをダウンロード/インストールして作業するローカル型ソフト(弥生会計など)と、ネット回線に常時接続してデータや処理をオンラインで行うクラウドサービス(マネーフォワードfreeeなど)があります。最近、仕分の自動生成をウリに急速にシェアを伸ばしているのは後者のクラウドサービスです」(吉澤税理士)

会計ソフト ローカル型とクラウド型の比較
ローカル型会計ソフト 会計クラウドサービス
代表的なソフト 弥生会計など マネーフォワードfreeeなど
デバイス パソコン パソコン/スマホ/タブレット
データの保管場所 PCのHDD クラウドサーバー
デザインの見やすさ
スムーズな動作 ×
利用料金 3万5000円程度(パッケージ購入orダウンロード) 月額4000円程度~
バージョンアップ 有料 無料
個人確定申告
法人税決算処理
画面デザインは素晴らしいが……

吉澤氏は税理士の仲間と共に、実際に5年間、会計クラウドサービスを「使い倒してみた」そうだ。その結果ネットの情報ではほとんど知ることができなかった(しかし導入した人の多くが思い知るであろう)会計クラウドサービスの致命的なデメリットを体験したという。

「クラウドサービスの理念自体は崇高で、画面デザインも素晴らしい。とくにマネーフォワードは、従来の会計処理体系からの移行にも配慮されているものでした。ですが実際に使ってみると、データ量が増えるとやたらと動作が遅くなるのに閉口しました。これはシステムの問題だけでなく、通信速度の問題もあるのかもしれませんが」

売上3億円を超える会社は要注意

仕訳の入力件数が多くなると、一つデータを入力して集計するだけで待たされる、あるいは、数字のおかしなところを見つけて修正し、再度集計するとさらに待たされる――。ローカル型ソフトなら、パソコンに元データが入っているからサクサク処理できる作業も、会計クラウドサービスの場合は、いちいちデータをネット上で処理するからタイムラグが発生するのだ。

「会計処理とは、あちらとこちらの数字と付き合わせて辻褄が合っているか、合っていないならどこが違っているかを突っつき回す作業です。それがもっさりしていたら、イライラが募ります。もちろん、取り扱うデータが大きくなければそれほど問題ないのです。およその目安ですが、年間売上3億円までの会社「マネーフォワードクラウド会計」「freee」などの会計クラウドサービスで会計処理するのに耐えられますが、それより大きな規模の会社だとローカル型ソフトか、少なくとも「PCAクラウド」など、中堅企業向けのクラウド型サービスの方がいいでしょう」

将来は間違いなく会計クラウドが普及

もっともこれは、「現在の会計クラウドサービスの動作速度」が前提になっているので、将来的に改善されれば、話は変わってくる。

「あらゆるデータがクラウド上に保存され、いつでもどこからでもアクセスでき、決算までが一気通貫で完了する――ネットの未来を見据えているのは、間違いなく会計クラウドサービスの理念でしょう。けれども、未来がそうだからといって“今”それに飛びつくのが正しいのかどうか。従来よりも余計な手間と時間がかかってしまうのであれば、本末転倒です」

共有すべきデータは何か

また、たとえば在庫管理や販売データは、部署をまたいだ多くの従業員がリアルタイムに状況を共有することのメリットが大きいから、現在の多少遅い反応速度を我慢してでも、クラウドに置くのが理想的だ。しかし、経理部門が取り扱うデータは、クラウドでリアルタイムに共有してメリットのあるものばかりではない。売上や利益の数字は、中小企業ならせいぜい月次で把握すれば事足りるだろうし、多くの会社は決算期にまとめて処理しているのが現状だ。給与や控除など、むしろクローズドな環境で扱うべきデータがある場合は、現在のところ、操作性を犠牲にしてまでクラウドサービスで処理することが正解であるとは限らない。

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売上高が3億円を超える企業は、会計クラウドよりも、ローカル型の会計システムの方が使い勝手がいい場合がある

 クラウド化は「経費精算」から始めなさい クラウド化は「経費精算」から始めなさい

経費精算クラウドを導入すると何が変わるのか

紙は「糊付け」、「ホチキス止め」が必要

「では、経理部門で何を導入すれば、リスクを負うことなく、最も大幅に手間と時間を短縮できるかと言えば、それは『経費精算』です。経費精算は経理部門のみならず、あらゆる部門の従業員が関わる作業ですから、全社的に効率化が図れます」

経費精算クラウドサービスなどが導入されていない会社の場合、経費は従業員がいったん立て替えて支払い、従業員はもらった領収書を定期的にまとめて、経費精算申請書に必要事項を記入して、上司を通じ経理部に経費精算を申請する。交通費であれば、申請用紙に日付/移動区間/交通手段/目的を記入し、飲食費であれば日付と利用店と同席者と目的を記入する。領収書がある場合は、領収書を用紙に糊付けするか、ホチキスで留めるなどして添付しなければならないのが普通だ。

経費精算クラウドは自動で交通費のルート確認

経理担当者は、申請書を受け取ると、提出された経費精算申請書の経費が正しい目的で使われているか(交通費であれば移動手段やルートが適当なルートであるか確認)、金額に間違いがないか、領収書の添付があるかをチェックして、疑問があれば申請者に問い合わせる。そして少なくない割合で、記入漏れや計算ミスで間違いが発見され、それらを訂正する。このような経費精算に関する業務は、一件あたりの金額が少ない場合でも、煩雑で手間がかかる。

「導入すると格段に経費精算業務が楽になるのが『経費精算クラウドサービス』です。クレジットカードやICカードなどと連携してデータを取り込むことができ、交通費は最適ルートかを確認の上、集計して承認の可否までやってくれます。勘定科目や税区分は、導入当初こそ経理担当者が手動で選択する必要がありますが、学習させると、細かい経費精算に対する仕訳生成がほとんど自動でできるようになるのです」

現金払いは領収書をその場で撮影

では、現金で支払い、領収書をもらって申請する場合はどうすればいいのだろうか?

「主要な経費精算クラウドには便利な機能がついています。申請者が受け取った領収書をスマホで撮影すると、画像がクラウドサーバーに送られて“タイムスタンプ”がつくと同時に、OCR機能があれば、日付や金額を読みとってデータ化してくれます。これまでのように、領収書を溜め込んでおいて、経費精算期日にまとめて申請書を作るのでなく、領収書を受け取ったらその場ですぐ撮影すれば、経費精算の入力が完了します」

手書き領収書は1枚20円で外注入力

しかし、OCR機能があっても、その読み取り精度は100%とはいかないのが現実だ。間違いが許されない領収書の金額などについて、OCR読み取りの正誤を目視で確認し、修正しなければならないとしたら、結局、手作業の経費精算作業からは卒業できないことになる。そこで、一部のクラウドサービスでは、利用者が撮影した領収書について、「日付、支払先、金額」の手入力や修正を代行する方式を採用している。このようなサービスを利用できれば、OCRの読み取り間違いなどを自分で修正する必要がないので、紙の領収書の経費精算作業は大幅に楽になるだろう。料金は、たとえば「Dr.経費精算」や「マネーフォワード経費精算」の場合で、領収書1枚につき20円程度だ。

「私のお客様である建築工事会社は昨年度4000枚の領収書で代行入力を使いましたので、追加費用で支払ったのは年間8万円でした。社長は『たったこれだけの金額で、あの煩雑な経費精算のための手入力の手間が省けるのなら、十分すぎるコスパだ』と大喜びしていますよ。」

経費精算クラウド以上に効果がある「方法」とは?

見落とされがちな「コーポレートカード」と「ICカード」

そして、クラウドシステムに目を奪われると見落としがちなことだが、実は経費精算を効率的にするために、経費精算クラウドシステムを導入することと同じか、もしかするとそれ以上に大事なことがある。それは、現金での経費の支払い自体を減らすことだ。

「現金で支払うと証拠が必要になるので、領収証や領収書の撮影が必要になるわけです。そこで経費はなるべくクレジットカードで決済してもらう方針にします。法人カードには従業員用の追加カードを発行できるものがあるし、なければ社員に年会費無料のカードを経費専用として作ってもらい、利用明細をデータで提出してもらえばいいのです」

もちろん、たとえば接待交際費の場合は、接待の相手方の申請は必要なので、経費精算申請書を作成する手間は残る。しかし、領収書の管理が楽になり、不正請求も生じにくい。従業員にとっても、法人カードであれば無論のこと、自分名義のカードでも引落日(通常は使用の翌月以降)より前に経費が振り込まれるので、「立て替え」が発生しないというメリットがある。また、カードによっては旅行傷害保険が付帯していたり、利用によってポイントやマイルがたまるので経費削減につながる。

「不正使用」より「業務不効率化」を心配しよう

「法人カードを提案をすると、従業員によるクレジットカードの不正使用について心配する人がいるのですが、毎月利用履歴を提出するルールにすれば、引落日より前に内容を把握できるはずです。また、カードの利用限度額を小さくしておけば、クレジットカードで高額な品を購入してそのまま行方をくらますような不正も、割に合いません。経費精算の負担軽減のメリットとクレジットカード不正利用が発生するリスクを天びんにかければ、明らかに前者の方が勝るでしょう」

交通費も、Suicaをはじめとした交通系ICカードの利用で履歴が確認できる。クレジットカードと同様に、その履歴から自動で仕訳生成をすることも可能だ。紙を見ながらエクセルシートなどにに交通費を手入力し、人手で仕訳をしていた手間が省け、誤読や入力によるミスや手間は大幅に減る。

このように、経費はなるべくクレジットカードやICカードで決済するように社員に心がけてもらえれば、利用の詳細がデータで残るので、経費精算の際に領収書で支払いを証明しなければならない必要性は限りなく減っていく。

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コーポレートカード導入で現金利用を減らすことは、経費精算クラウドの導入と同様、経費精算業務の効率化につながる

クラウドサービス導入の「王道」

吉澤氏が各種システムを使ったうえ、取引先企業や税理士仲間と議論した上での結論はこうだ。

「会計クラウドサービスは、ユーザーインターフェイスや、目指す理念は素晴らしい。しかし、規模が大きい会社や歴史がある会社が使おうとすると、反応速度の遅さや設計コンセプトの違いなどで問題が生じる場合がある。その点では以前からあるローカル型の会計ソフトに一日の長がある。ただ、経費精算クラウドサービスに関しては、大企業でも性能をいかんなく発揮でき、経費精算の手間と労力を大幅に削減できる。」

現在は業務クラウド化の過渡期で、クラウドとAIで「経理が全て自動化できる」とまで考えるには時期が尚早な面もある。また、いくら社内の経理をクラウドなどで自動化しても、紙の領収書の精算が依然として煩雑だったり、紙の領収書の扱いが多かったりすると、結局、手作業からは卒業できないことにもなりかねない。そこで、やみくもにクラウド化を進めるのではなく、まずは間違いなく成果が上がる経費精算クラウドサービスから導入し、紙の領収書の精算作業の効率化や、紙の領収書自体の削減を並行して進めることが、「手作業経費精算からの卒業」への近道だと言えるだろう。

構成=渡辺一朗 イラスト=田中英樹 編集=eon-net編集室